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長門さんと彼がいるいつもの部室。
そしていつも通りに彼とボードゲーム。
彼がちらちらと僕の方を窺ってくる。
何か言いたいことがあるのだろうか?
珍しいこともあるものだ。
彼は何か決心したようで、こっちをはっきり見て尋ねてきた。
「なぁ、お前って彼女とかいないのか」
と。 一瞬の思考の停止。
は?なんですか。その疑問は。てっきり涼宮さんのことかと思っていたら僕についてですか?
しかも僕の恋愛事情ですか?
「…どうしたんですか?あなたがそんなことおっしゃるなんて。そういうことを言うのは自分も彼女が出来たとか、欲しいと思っている方が言うものだと僕は思っているのですが」
「まぁ、俺は普通の高校生だ。全く欲しくないとは言わんさ」
何を言っているんですか!?
あなたはこの世界の鍵なんですよ?
自覚が無いとはここまで恐ろしいものなんですね。
というか、あなたに彼女を作ってもらっては困ります。
それが涼宮さんならいいんです。この世界の崩壊にも繋がりませんし。
しかし、いきなり「これ、俺の彼女」と言いつつ知らない女性を連れて来られてはたまりません。
「何笑顔をひきつらせてるんだ、お前。っていうか、俺の質問に答えてないぞ」
どうして、そんなに人の表情は読めるのに肝心なことには鈍いのでしょうね。
わざとやっているのではないかとつい疑ってしまいます。
「おや、ばれてしまいましたか」
もっと表情を読まれないように練習しなくてはいけませんね。
僕の本当の感情を読まれてしまってはたまらない。
まぁ、恋愛ごとには人一倍鈍いようなのでその心配はないでしょうが。
しかし、何か変だ。と感じさせることすらないようにしなければ。
「なんだよ、答えられないのかよ」
ああ、考え事をしていて彼の本来の質問を忘れていた。
「いえ、答えるのは簡単ですよ。いません。夜中に連絡もつかない、放課後も空いていない、休みの日も美少女3人とグループデート。そんな男を彼氏にしたいと思う女性に僕は心当たりがありませんね」
彼は僕の言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような顔をする。
そんなに心外だったんでしょうか。
「…なんだ、そのグループデートっていうのは。まさか俺もメンバーとして数えられてんのか?」
グループデートという言葉がお気に召さなかったらしい。
「気付いていなかったんですか?傍から見れば僕達はそうとしか見えませんよ?」
冗談でも厭味でもなく本当にそうなんだから仕方が無い。
「そんなこと考えたこともなかったね」
間髪を入れずに言われる。
本当だろうか?彼は本当に気付いていないのかそれとも自分にそう言い聞かせているのかわからない。
「そうですか。まぁ、とにかく、そんなことを許してくれるような彼女はいませんね。そんなことよりもあなたがどうしてそれを僕に聞こうとしたか、そのことの方が僕にとっては重要なことなんですが、お聞かせ願いませんか」
彼がこの質問をした理由によっては閉鎖空間が発生してしまうことになるだろう。
すると彼は何でもない風に
「あぁ、恋愛小説もどきを書いてたらお前はどうなのかって思った。というか、超能力者がどんな恋愛してんのかとかに興味があった」
と答えた。
すると、僕に興味があったのではなくて超能力者の方に興味があったのですか。
ちょっとショックです。
いえいえ、しかし、今思うべきことは、彼に好きな人が出来たという理由で聞いてきたわけではなくて良かった、ということだ。
この理由では閉鎖空間の発生は考えられない。
…しかし、残念です。
残念がってはいけないのでしょうが、残念であることには変わらない。いやしかし、喜ぶべきところなんだ。
ああしかし…と、そんな『しかし』ばかりの無駄なことを考えていたら
「なぁ、理解してくれる奴がいないって言ってたが、もし現れたら付き合うのか?」
と、また彼らしからぬことを言い出した。
「…本当にどうしたんですか。あなたからそんな言葉が出るなんて珍しいって言葉じゃ収まりませんよ」
彼の目はさっきよりも少し輝いているように見える。
そう、まるで子供がいいアイディアを思いついた!みたいな感じだ。
何を考えているのだろう?
「それで?どうなんだ?理解してくれるなら誰でもいいのか?」
…そうか。さっきの発言は誰でもいい、みたいに聞こえてしまったのか。
それに対する答えはもちろんNOだ。誰でもいいというわけではない。
しかも僕には今、好きな人がいるわけで。そんな失礼なことは出来ない。
僕の恋は実ることが無いけれど、好意を寄せてくれているからといって安易な恋をするつもりもない。
「そうですね。今の僕は誰とも付き合う気はありませんね。たとえ僕の事情を理解してくれる方であっても」
「あー、そうなのか」
「はい。そうです」
僕はいつもの笑顔で言ったはずだった。
「古泉、お前顔はいいんだから、あれだぞ。好きなやつがいるならアプローチすればいいんじゃないか」
彼のこの言葉を聞くまで完璧に取り繕えていると思っていた。
驚いた。
彼がこんなに僕のことをフォローしてくれたことにも、諦めているのが顔に出ていてそれを見破られていたことも。
驚いたけれど、それは嬉しかった。
彼が僕のことを見てくれていることと、そのフォローが純粋に僕を励まそうとしてくれているということがわかったことが。
「ふふ。そうですね。ありがとうございます。でも、僕には特別好きな人はいませんよ。自分のことで手一杯です」
嘘を吐く。
僕に好きな人がいるという事実を彼には知られたくはない。
もしそれに興味を持たれたら困るから。
もし自分がその人本人だと勘付いてもらっては困るから。
僕と彼との関係もこの世界そのものも壊れてしまうから。
「そうか」
「はい」
彼は何か考えているようだ。
それも、悲しそうな顔をしながら。
それを見ているのは少しつらかった。
彼が好きだから。そんな顔はして欲しくない。
「古泉。もう少し自分の好きに過ごしていいんじゃないか」
そんな彼のアドバイス。返す言葉はみつからない。言葉に詰まる。
彼はきっと僕のことを考えてこう言ってくれているのだ。
僕の表情から、本当は好きな人がいるんだろう、諦めるなよ。自由に恋愛しろよ、と。
まさか自分がその僕の好きな人だとは露ほども思わずにそう言っているのだろう。
彼はあまりにも優しくて残酷だ。
僕に好きな人がいるという彼の考えは当たっている。言葉に詰まってから言い訳しても、そんな言い訳は意味を成さないだろう。
でも、あなたが好きなんですよ。なんて言えるわけがない。
「僕の恋は叶わないんですよ。決して叶うことはないんです。でも僕は…そうですね、幸せなんですよ。好きな方の近くにいれて。それを許してもらえて。このままでいることを望んでいて、そして過ごしている。それが僕の自由なんです。だからいいんです」
それは今の僕に言える精一杯。
そして真実の言葉。
僕は今、幸せなんだ。
この世界が壊れることもなくあなたの傍にいられるのだから。
「そういうもんかね」
腑に落ちない、というのが顔に出ている。
いいんですよ、理解しなくても。納得出来なくても。
「はい。僕にとっては」
そう、僕にとっては。
彼は、ふと何かを思いついたような顔をした。
そして僕の顔を窺う。目を逸らす。確認したいような、でもやめておこう。そんな雰囲気が漂っている。
顎に手を当てて思案顔。そしてふと、今はいない団長の席に視線をやる彼。
ああ、そうか。僕の物言いから勘違いさせてしまったのか。それはいけない。
無いだろうが、もし彼が僕に遠慮して涼宮さんから告白されても断ってしまうとかいう事態になってしまったら不始末どころの騒ぎではない。
「あぁ、そうだ。もし、あなたが僕の好きな人について思い至ったとしても、それは間違いです。これは確かです」
彼の思考では僕の好きな人を当てるのは不可能ですからね。
そして当てられた時には僕を見る目がそんなに同情で彩られていることはない。
おやおや、彼は不審な顔をしていますね。
「ご心配なく。僕に考えを読む等の能力はありません。きっと、あなたならこんなことを考えているのではないかと想像しただけです」
あなたをいつも見ているから出来るのです。
あなたのことを知りたいからどんなことを考えているのかを考えてしまうのです。
そして思い至れるのですよ。
「ほう。それじゃあ、俺が答え合わせをしてやろうじゃないか。言ってみろよ。俺の考えとやらを」
そんなに僕のことが信用なりませんか。あっている自信はありますよ?
「僕の好きな方は涼宮さんじゃありませんよ」
彼は無言になった。
僕をジロリと睨む。
そんなに内心を当てられて事が気に入らないのですか?
それとも僕が嘘を吐いているとでも思っているのでしょうか。
「僕の恋が叶うなんてありえませんから。いいえ、ありえてはいけないんです。ああ、機関からの定期連絡です。失礼」
ケータイを片手に部室を出る。
本当は着信なんて無かったけれど、あのままでいたらいらないことまで喋ってしまいそうだった。
最後のはつい、口が滑った。
叶うのがありえてはいけない恋なんて、そんなにない。
そして涼宮さんを排除したとしたら…あれ?本格的にやばいですかね?
いえいえ、そこは機関も恋愛事禁止ということにしてしまえばいいでしょう。
それにしても…
自分の感情に驚く。
彼に自分の気持ちを知ってもらいたいという願望があったことを知った。
つい、とは言えあんなことまで話してしまうとは。
口元には彼には見せない笑み。
まだまだ僕も甘いな。
さて、彼の元へ戻るためにいつもの笑顔になりましょう。
彼のことですから、今度は僕の好きな人を朝比奈さんだとでも思っているのでしょうから。